2001年1月6日

神について

盗賊と娼婦





 あなたは、あなたの罪を認めなさい。
 そうすれば、すでにあなたは、許されているのです。
 あなたは、あなたの行いを悔い改めなさい。
 そうすれば、あなたのこれまでの行いは、清められるでしょう。

 態度や行動に現れなければ、悔い改めた事にならない。

 思っただけでは、駄目です。考え方を変えなければ。
 考え方を変えただけでは駄目です。言葉に出さなければ。
 言葉に出しだけでも駄目です。態度に現れなければ。
 態度に現れただけでも駄目です。行動が変わらなければ。
 その人の行動に現れて、はじめて、悔い改めたと言えるのです。

 そうその方が話しかけた時、突然、大きな声がした。

 許されるだって。
 あなたは、私が何をしたか知らないではないか。
 私が、したことを聞けば、とても許されるなどと言えるはずがない。

 そう言うと一人の盗賊が立ち上がり、その方に一礼をすると、こう問いかけた。

 私は、悪逆非道の限りを尽くしました。このような、私でも神は、お許しになりますか。

 その方は男の目をじっと見つめながら優しく語りかけた。

 お許しになります。神は、お許しになります。しかし、その前に、あなたが、自分を許し、本心より、悔い改めなければなりません。

 男は、顔を覆うと呻くように言った。

 ああ、なんて残酷な事をあなたは、言われるのか。
 この私を、私が許せるかですと・・・。
 私が、どれくらいひどい事をしてきたか、あなたは、ご存知なのか。今更、悔い改めたところでなんになろう。

 男に向かって手を差し伸べながらその方は言った。

 神は、あなたを裁いたりはしない。
 あなたを裁くのは、あなた自身だ。
 そして、その裁きが神の裁きだ。

 男は、その方の手を振り払い、その方から目を背けると

 あなたは、自分で自分の犯した罪を認める事がどれ程恐ろしく、辛いことか解ってはいないのだ。

 再び、その方は、男の方に手を差し伸べながら

 それでは、あなたは救われない。
 罪を犯した者は、自分の罪を認めるのが難しい。
 だから、自分を許すことができないのです。
 罪を認め、悔い改めなければ、あなたは、自分で自分を呪い続けるだろう。
 未来永劫、自分で自分を呪い続ける事が、その結果、待ち受けている運命が、どれ程恐ろしい事か、あなたには解っているはずだ。

 といわれた。
 男は、その場にしゃがみ込むと

 嗚呼、神よ。お許し下さい。

 と言った。
 その方は、男の傍らに立つと、優しく肩に手を掛け

 神に祈りなさい。そう、神に許しを乞うのです。神を必要としているのは、あなたです。あなたこそ、神を必要としているのです。神に、祈りなさい。

 といわれた。
 それを聞くとその盗賊は、大笑いをし、それから、大粒の涙を流して、オイオイと泣き出した。

 自分が悔い改めたとしても、誰がわかってくれるのですか。

 その方は、微笑んで、

 神はご存知です。懺悔し、悔い改めなさい。
 心から、自分に許しを乞うのです。
 人の世の裁きは、人の世の法に基づいて、神の世の裁き、神の世の法によって為される。
 あなたは、人に裁かれなければならない。それが人の世のならい。
 しかし、自ら死を望んではならない。
 生きなければならない。
 それが、神の意志。

 と男に応えられた。
 わかりました、これより、自分の犯した罪を懺悔し、償いに行って参ります。

 その方は、男に向かって声を掛けられた。
 裁く者のために、祈りなさい。
 もし仮に、刑罰を受けることになったら処刑する者のために祈りなさい。

 盗賊は、その方を哀しそうに見ると

 神は、私をお許しになるでしょうか。

 と再度尋ねた。

 その方は、優しく微笑むと

 神はいつもあなたを許しておられる。
 答えを、神に問うてはならない
 答えは、自分に問いなさい。

 そして、しばらく沈黙した後、その方は

 ただ、生きよと・・・。

 と言われた。
 皆に自分の罪を懺悔すると、その盗賊は、その場を立ち去っていった。

 群衆に追われて、一人のみすぼらしい女がその方のほうへ救いを求めて逃げてきた。群衆は、その女に向かって石を投げつけてきた。うずくまる女の上に身を投げ出すようにしてかばったその方の額に一つの石が当たった。
 それを見て、多くの人が立ち上がった。それをその方は、制した。

 一人の老婆が、その女を指さして、いった。
 なぜ、かばいなさる。その女は、私の息子を誑(たぶら)かしたのだ。

 その方は、その老婆の方を見つめると、
 この女だけに罪があるのですか、あなたやあなたの息子には罪はないというのですか。
 そして、老婆の肩に手を載せると、

 まあ、この女(ひと)の話も聞いてみようではないですか。

 と諫(いさ)められた。
 それから、その方は、倒れかかった女を優しく抱きかかえた。その女は、粗末な服を身にまとい、体は、薄汚くやつれていたが、しかし、その瞳は、汚れを知らないように澄んでいた。

 どうか、お許し下さい。
 私は、罪深き女です。私は、身も心も汚れています。

 と言うと、その女は、さめざめと泣いた。

 私の家は、貧しかったのです。ですから、家計の助けに早くから働きに出たのです。そのうちに悪い男に騙されて、客をとらされるようになりました。

 私は、売られたのです。確かに、私の意志ではなかった。
 でも私は、身も心も汚されてしまったのです。
 こんなに汚れた私を、神は、私をお許しになるでしょうか。
 私は、自分の人生を呪い、世間を恨んだこともあります。
 なぜ、私だけがこんな思いをしなければならないのかと。
 でも、私は、今、悔いています。自分さえしっかりしていればこんな事にはならなかったと。
 改めようとしたのですが、結局、改められなかった。
 それでも、まだ、遅くないと私は、信じたいのです。

 その方は、その女を力一杯抱きしめると、涙を一滴(ひとしずく)流され。愛おしみようにその女の顔を見つめて言われた。

 あなたは、汚れてなんていません。
 すくなくとも、あなたの魂は、美しいままです。
 この世に汚れたものはありません。
 汚れたと思うのは、あなたの意識です。
 意識が変われば、あなたは救われます。
 あなたは、あなた自身を許しなさい。
 あなたの肉体に、尊いところと汚いところがあるのではありません。
 頭だから、顔だから尊く。
 肛門は汚れているなんて言う事はないのです。
 そう思うのは、あなたの意識です。
 大切なのは、救われたいというあなたの思いです。
 純粋無垢な心です。
 今からでも遅くはありません。
 悔い改めなさい。
 救いは、目の前にあります。

 そう言われるとその方は、群衆に向かって言われた。

 人の一生は、自分が思い描くような幸せにはなれないかもしれない。
 それでも、幸せになる事は諦めないでください。
 幸せになるために、努力をするのです。

 望まなくても不幸には、なれるけれど、望まなくては幸福にはなれない。
 自分が変われば、周囲も変わる。
 周囲が変われば、社会が変わる。
 社会が変われば、国も変わる。
 国が変われば、世界が変わる。
 あなたのたった一歩が、やがては、大きな力になる。
 信じなさい。
 信じるのです。
 そして、勇気を出して、最初の一歩を踏み出すのです。

 人類の滅亡の何が恐ろしいのです。
 悔い改めることなく、死んでいく方が余程、怖い。
 そして、人類滅亡には、その兆しを感じるから怖れるのです。

 あなた方の中で、自分が一番不幸で恵まれていないと思っている方はいませんか。
 そう言うと、その方は、一わたり人々の方を見回した。しかし、誰も手を挙げる者は、いなかった。
 その方は、それを見ると優しく微笑まれ。それから、こう呟かれた。

 多くの人達は、自分の望みが叶わず。
 絶望し、もがき苦しむ。ここにいるあなた方も例外ではあるまいに。
 それでも、少しは、神に感謝をしているのですね。
 神を信じてもいいと思っているのですね。
 不幸な人は沢山います。確かに、人は、自分から望んでこの世に生まれたのではないかもしれません。
 自分に与えられた、境遇や肉体も自分の思い通りのものではありません。
 しかし、それでも、ほんの一時ぐらいは、幸せな気持ちになれる時があるでしょう。
 一瞬でも、神に感謝する気持ちが起きるものです。

 そして、一呼吸おいて、

 それでいい、それでいいのです。
 ほんの少しでも神に感謝をしようと言う気持ちがあれば、それだけで救われるのです。
 神を信じるのです。

 と呟かれた。

 それからおもむろに空に向かって手を広げ、空を抱きしめるようにして慟哭された。


TOP         Contents         NEXT

罪の償い

このホームページはリンク・フリーです
Since 2001.1.6
本ページの著作権は全て制作者の小谷野敬一郎に属しますので、一切の無断転載を禁じます。
The Copyright of these webpages including all the tables, figures and pictures belongs the author, Keiichirou Koyano.Don't reproduce any copyright withiout permission of the author.Thanks.


Copyright(C) 2001 Keiichirou Koyano