一人の老婆が弱々しく立ち上がるとこう尋ねた。
 死んだら、私は、どうなるのでしょう。天国へ、いけるでしょうか。極楽浄土は、あるのでしょうか。

 それに対し、その方は、次のように答えられた。

 死後の世界について、私は、語らない。なぜなら、死後の世界は、誰も確かめようがないからである。何かを語れば、人を惑わすだけだ。
 しかし、これだけは言える。自己の存在は、肉体とは関係がない。そして、神は、自己を、超越したところに存在する。すなわち、神は、あなたの内にある。あなたの命、魂の根源に神はおられる。

 自己は、死生を越えている。自己こそ神に通じる唯一の存在。それ故に、自己を純化したところに、死を越えた世界がある。
 つまり、自己を純化した世界こそ、魂の根源の世界である。
 人を憎み呪う者は、憎しみの国へ。
 争いを好む者は、争いの国へ。
 人を欺き騙す者は、詐欺師の国へ。
 人を殺す者は、人殺しの国へ。
 人を恐れさせる者は、恐怖の国へと通じ。
 愛欲に溺れる者は、愛欲の国へ。
 飽食する者は、飢餓の国へ。
 人を愛し慈しむ者は、愛の国へ。
 正義を望む者は、正義の国へ。
 悪霊を神と崇める者は、悪霊の国へ。
 神を敬い信じる者は、神の国へと通じるのです。
 だからこそ、あなたの、今の生き方が、大切なのです。
 今のあなたを大切にし、今、あなたが信じる生き方を、突き詰めることが重要なのです。
 信仰の本質は、あなたの生き方にある。
 あなたが何を信じ、どう生きるか、つまりは、何を実践したかにある。
 これから、あなたが行こうとしているところは、つまりところ、あなたが望んだ世界なのです。

 天国も、地獄もあなたの心の中にある。天国というのは、あなたの天国なのです。そして、あなたの行いによって、あなたは、裁かれるのです。

 生きている者で、死んだ者はいません。
 なのに、人は、生きている者は、いつか必ず、皆、死ぬと思いこんでいる。
 不確かな未来を怖れて、確かな今を忘れる。愚かなことです。
 今を活き活きと生きる者は、死など恐れることはないのです。

 いきなり、みすぼらしい身なりの者が、立ち上がり、ぶっきらぼうに、その方に問いかけました。

 私は、ある新興宗教に騙されて、全財産を失ってしまいました。無一物になった私は、いろいろな国を旅し、いろいろな街に行きました。そこで目にしたのは、どんな国でも最も、壮麗で大きな建物は、寺院、仏閣でした。宗教とは、そんなに儲かるものなのですか。

 それを聞くとその方は、

 神の名の下に、商売をする者がいる。神を利用して、金を儲ける者がいる。彼らは、神を否定する者達だ。神の真実を知る者が、神を利用して商売や、金儲けをするであろうか。神を恐れぬ者だけになせる業である。彼らに与えられるのは、底のない闇と、永遠に続く孤独だけだ。

 と激しい口調で言った後、その者の目を見つめ、

 神を試したり、取引をすべきではない。
 神を試すのも、取引をするのも無意味であり、愚かな行為だ。
 神を試せば、結局、報いは自分が、受けなければならない。
 神に見返りを求めたところで、それは得られない。なぜなら、神は、すべてを与え尽くしているからである。
 あなたは、神に何を求めたのですか。
 神に、現世利益を求めたとしたら、それは、得られません。
 御利益とは、目に見えない、形のないものです。
 私は、これだけのお布施をしたのだから、これだけの、御利益があって当たり前だと思うのは、間違いです。
 神は、すでに、与え尽くしています。ただ、あなたがたが、それに、気がつかないだけです。それ以上のものを求めるのは愚かです。
 幸せは、自分の力で、勝ち取るものです。かりに、お布施をして、何らかの御利益を得たとしても、それは、あなたの力によるのです。神の力ではありません。
 神は、私たちに生きる勇気、困難に立ち向かっていこうとする力を与えてくれるのです。それ故に、事が成就したあかつきには、そっと心で手を合わせ、神に感謝をすればいいのです。
 と優しく諭されました。

 神を利用する者は、神を否定する者です。神を利用して、名を売る者がいる。神を利用して、金を儲ける者がいる。神を利用して、富を蓄える者がいる。神を利用して、権力を得ようとする者がいる。神を利用して、人を支配する者がいる。神を利用して、洗脳しようとする者がいる。神を利用して、自分の行為を正当化しようとする者がいる。こういう者は、全て、神を否定する者であり、このような行為は全て、神を冒涜する行為である。

 人は、人生の最後の瞬間に、自ら罪と対峙しなければならない。
 その時、誰があなたを許してくれるでしょう。神以外にあなたを許すものはいないのです。
 あなたを裁くのは、あなた自身なのです。

 神のみが人を許すことができるのです。神のみが人を救うことができるのです。

 罪を認めなければ、許されることはありません。

 もし仮にあなたが人を殺したとして。あなたは、殺した相手に許しを請えるでしょうか。また、相手が許したとしても、本当に、それが、救いとなるでしょうか。あなたの犯した罪は消えるでしょうか。

 あなたを裁く者は、あなたです。そして、あなたを許すことのできるのは、あなたの神のみです。
 




             

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