私は、神の裁きが、恐ろしくて夜も、おちおち寝ることもできません。死んだら地獄へ堕ちるのではないか。どうしたら、地獄へ堕ちずに済むのか、そればかり考えております。このままでは、私は、ノイローゼになってしまいます。どうかお救い下さい。

 そういわれて、その方は、質問した者の方をしばらくじっと見つめられ、すこししてから、次のように言われた。

 神が、人を裁くのではありません。
 人は、自らの規律によって裁かれるのです。
 鳥は、鳥の規律によって、獅子は獅子の規律によって、草木は、草木の規律によって裁かれる。同じように、人は、人の規律によって裁かれる。
 愛を規律とする者は、愛によって裁かれ、憎しみを規律とする者は、憎しみによって裁かれる。
 神は、これこれをしては、ならないとか。これこれをしなさいとかおっしゃってはいない。それを言うのは、人です。神を怖れる前に、自分の心を怖れなさい。自分の行いをこそ怖れなさい。
 天国も地獄もあなたの心の中にあるのです。
 愛欲を規律とすれば、無限の愛欲の淵に沈む。憎しみと恐怖を規律とすれば、無限の憎しみと恐怖の連鎖に巻き込まれる。自らを裁く者は、自らである。自らを救うことのできるのは自らである。人は、だませても、自らを、欺きだますことは、できない。
 人が、神に救いを求めるのは、神が、自らの行いと規律の本源だからである。
 神は、常に人を許している。許していないのは、神ではなく、あなた自身の規律です。許されないのは自らの行いです。故に、自らが悔い改めない限り、真の許しは得られない。

 嘘をつけば、自分のついた嘘に復讐される。自分のついた嘘は、巡り巡って結局は、自分のところへ還ってくる。自分の虚栄心が作り出した、虚像は、自分ではないから、いつかは、自分では制御できなくなる。しまいには、本物の自分が、判らなくなる。いずれにしても自分を見失い、訳がわからなくなってしまう。

 神は、全ての始まり。

 神の本質は、救いです。許しです。裁くことではありません。神は、あなたを裁くことによって、あなたを救おうとしているのです。
 神の本質は、愛です。許して、許して、ひたすらに許し抜く。それが神です。

 青ざめた男が、ぶるぶると震えながら、一人ぶつぶつとづぶやく。

 私は、神の裁きが恐ろしくてたまらない。私の手は、血で汚れ。振り返ってみると、私の一生は過ちばかりでした。取り返しのできない過ちで人を傷つけたこともあります。自らが犯した罪に、恐れおののき、眠れぬ夜ばかりです。

 その方は、その男に向かって手を差しのばすと、諭した。

 人は、罪を犯すものです。なぜなら、人の価値観は、絶対的なものではなく、相対的なものだからです。相対的な基準だから、前提や条件、環境が変われば過ちとなる。この世は、無常なものである。絶え間なく変化し続けるこの世において、前提や条件、環境に拘束される価値観は、無力である。結果、人は過ちを犯す。過ちによって罪が生じる。故に、人は罪を犯す。罪を犯すのであれば、裁きは避けられぬ。避けられる罪を恐れて裁きから逃げれば、人は救われぬ。故に、裁きは救いなのです。

 裁きは、恐ろしいものではありません。裁きは、悪いことでもありません。神の裁きは、救いです。神の裁きは喜ばしいことです。

 その男は、少し落ち着きを取り戻すと、その方に救いを求めるように尋ねた。

 私は、さんざん神の名を語らって悪事を働いてきました。こんな私でも神は許してくださるでしょうか。

 神は、いつでも、あなたを許しております。許していないのは、あなたです。あなたが、あなたが犯した過ちを認め、悔い改めるのならば、あなたは、許されるでしょう。
 問題は、あなたが、あなたを許せるかどうかです。神に許しを請う前に、あなた自身に許しを求めなさい。あなたが、あなたを、許せるようになるまで、あなたの苦しみは続くでしょう。それが、神の裁きです。
 憐れむのならば、あなた自身を憐れみなさい。実り豊かになるはずだったおのが、人生を、自らの意志で貧しくしてしまったことを・・・。
 わたしは、あなたのために祈ります。
 神の裁きを、怖れては、なりません。人は、神の裁きによってのみ救われるのです。



                 
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